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業態開発では個性的な商品や売り方などを編み出し、競合との差別化を図ろうとするのが通例であろう。だが、それとは真逆の戦略を打ち出し、大躍進を遂げているのが?グロブリッジだ。
同社が東京・高田馬場に創業店である居酒屋「せかいち」高田馬場店をオープンしたのは2008年11月。翌09年9月から多店化に着手すると、10年に6店、11年に28店を出店するなど、加速度的な勢いで店舗網を拡大させている。

 店数は11年12月末現在で36店。せかいちの他、「赤てんぐ」「花のすみか」など、全部で7ブランドを有しているが、せかいち以外のブランドについては「同じエリアで2店以上を出店するうえで競合を避けるためにブランド名を変えているだけ」と同社代表取締役の大塚誠氏が語るように、基本的には単一業態によるチェーン展開を進めている。

せかいちはもつ鍋を主力とした居酒屋である。ただ、鍋には新鮮なホルモンを使用しているものの、多種多様なもつ鍋専門店が登場する中で、とくに看板商品として抜きん出た商品力を打ち出しているわけではない。その他のメニューについても串焼きや唐揚げなどの居酒屋の定番商品が中心。また客単価は3000円前後で、値ごろ感はあるものの、低価格化が進む居酒屋市場では安さを売り物にしているとはいえない。 特色を見つけるのが難しいほどに「脱個性」を図った業態でチェーン展開を進めているわけだが、大塚氏はそれを「『負けのマーケティング』から導き出されたビジネスモデル」と説明する。

延べ5万人に聞き取り調査

 負けのマーケティングとは何か。その意味を理解するためにはせかいちの業態が確立されるまでの経緯を追う必要がある。
 前述した高田馬場店はオープン翌月の08年12月には27坪60席の規模で月商510万円を計上する好調なスタートをきった。ところが、09年に入ると一転して売上げが低迷。3月には月商370万円まで業績が落ち込み、資金ショートの危機に瀕することになる。
 そこで大塚氏は業態改善を図るために「プロジェクト1000」を始動させる。これは09年12月までに売上げを月商1000万円に伸ばすことを目標に掲げたもの。売上高3倍増に近い現実離れした数値だったが、それを実現させるために店舗運営は従業員に任せ、大塚氏は客数アップの対策に徹した。

 その手法はただひたすらにキャッチセールスを繰り返すという地道なもの。大塚氏は毎日13時間かけて通行人全員に声をかけ続けたが、そ中で「これまで自分たちがやってきたことが誤りだったことに気づいた」(大塚氏)という。

キャッチセールスはただ呼び込みをするだけではなく、聞き取り調査も兼ねていた。大塚氏は来店客からせかいちを選んでくれた理由を聞くとともに、来店を断ったお客にもその理由を尋ねた。 「その数は5ヵ月間で延べ5万人におよびますが、聞き取り調査を重ねる中で、お客さまのほとんどが店を選ぶ明確な理由を持たないことが分かりました。これは居酒屋であることが前提にはなりますが、たしかに自分が友人たちと飲みにいく時にも、近場の店を適当に選択することが多い。逆に『なぜうちでは駄目なのか』という問に対しては、『もつ鍋が苦手』『もっと安くすませたい』などはっきりした答えが返ってくるのです」(大塚氏)

それまでは「選ばれる店」をつくろうと個性的な新商品の開発などに注力していた。だが、集客力を高めるにはそうしたマイナス要因を打ち消すこと、すなわち負けのマーケティングを業態改善に生かすべきではないかと考え、方針を転換。すると高田馬場店の業績はぐんぐんと伸びはじめ、12月には目標だった月商1000万円突破を成し遂げたのだ。

店舗ごと戦略が成長の鍵

 この経験からせかいちのチェーンフォーマットが固まっていくが、そこでは単に脱個性の業態をつくりだしたわけではない。
 せかいちの標準規模は25?30坪55?65席で、オフィスエリア、商業エリアなどの繁華街を主要立地としている。「よいロケーションを確保することが繁盛店づくりの第一条件」(大塚氏)という考えから、物件選定は大塚氏をはじめとする幹部が担当。一方で店舗運営は徹底した現場主義を敷いているのが特色である。

 フォーマットは8割を固定化する一方で、2割の可変要素を設定し、商品構成、価格設定、営業時間、販売促進の手法を店ごとに変更。左頁の囲み記事にその事例をまとめたが、看板商品である西京もつ鍋は1000?1580円と主力商品の価格設定も変えており、店それぞれの独自商品も積極的に導入している。
こうした戦略を採る理由について大塚氏はこう説明する。
「当然のことですが、まったく同じロケーションというのは存在しません。店によって客層や利用動機が微妙に変化するわけですから、それを的確に吸収していくには、現場主導で負けのマーケティングを実施し、戦い方を変えることが大事だと考えているのです」

企業家輩出を前提とした事業

 大塚氏はこれを「店舗ごと戦略」と呼んでいるが、それを現場に根付かせるには「従業員一人ひとりが企業家精神を持つことが欠かせません」とも述べる。
 大塚氏は独立以前に?ベンチャー・リンク(VL社)に11年余り身を置いていた。フランチャイズの加盟店開発など、中小企業の支援ビジネスを手がけるVL社は、「企業家輩出機関」を標榜し、事業を急成長させた企業。そこで大塚氏も企業家精神を叩き込まれたわけだが、「その理念を引き継いでいることが、いまの事業モデルのベースになっています」と大塚氏は言う。

 グロブリッジでは「企業家輩出」と「世界ナンバー1の企業になる」という2つの経営理念を掲げている。「グローバル+ブリッジ」を略した社名には世界展開を見据えた強い想いが込められ、「せかいち」の屋号も「世界一」が元になっている。 現在、同社には社員35人が所属。大塚氏は「平均年齢25歳にも満たない外食業の素人集団」と彼らを評するが、同時にそれが一番の強みであるという。

「採用時には必ず企業家を志願するかを確認し、意欲的な人材のみを集結させいます。素人であるがゆえに発想が自由であり、現場力を身につけるペースも速い。事業の成長とはすなわち人材の成長と捉えており、企業家育成に最適な舞台を整えたことが、事業拡大の原動力になっているのです」と大塚氏は力強く語る。

1号店の開業は2008年11月。それからわずか3年間で36店まで店数を伸ばす驚異の急成長を遂げているのが?グロブリッジだ。もつ鍋居酒屋「せかいち」の単一業態でチェーン展開を推し進めているが、意外にも業態そのものに差別化要素が存在しない。『企業家輩出』を理念に掲げ、世界一への道を邁進する同社の原動力を解析する。

徹底した聞き取り調査を元に
チェーンフォーマットを確立

2008年11月、東京・高田馬場にオープンした創業店。「せかいち」はもつ鍋を主力商品とした居酒屋で、開業直後は好調な業績をマークしたものの、その後は売上げを大幅にダウンさせる。業態改善のために延べ5万人への聞き取り調査を実施。来店してくれないお客から得た意見を元に、商品構成や価格設定など、メニューを全面的に見直したことで、09年12月には27坪60席の規模で月商1060万円を叩き上げ、業績をV時回復させた。客単価は3200円。現在も月商852万円を売り上げるチェーンの稼ぎ頭だ。

飲み屋街に位置する飲食店ビルの空中階に立地。近隣の学生やオフィスワーカーのグループ客を中心に集客し、連日満席状態が続く。
写真右は看板商品の西京もつ鍋。価格は各店で異なり、高田馬場店は1354円。サイドメニューは串焼きなどの居酒屋の定番商品が中心。
2009年9月に赤坂店をオープンし、多店化に着手。当初は居抜き物件を活用したローコスト出店を図っていた。
これまでに7ブランドを展開しているが、基本となる業態はせかいちと変わらない。
日本橋店は客単価3600円とチェーンの中で価格設定が高めため、それに合わせてブランド名を変更。

負けのマーケティングで 地域のニーズを最大限に吸収

 フォーマットの8割を固定化する一方で、2割の可変要素を設定した「店舗ごと戦略」を採っているのが、同社のチェーン展開における特色である。  フードは西京もつ鍋と元祖ちりとり焼きの2種類の鍋料理を柱に、串焼きや揚物など居酒屋の定番商品を中心に50品前後を揃えた基本メニューを用意。それをベースに店ごとに価格設定や商品構成などを定めていくが、それらの判断基準となるのが「負けのマーケティング」だ。 「入店するのに明確な理由はないが、入店しないのにははっきりとした理由がある」(大塚氏)という持論に基づき、随時、店ごとに周辺の聞き取り調査を実施。「NO」の意見を徹底して集め、マイナス要素を排除した営業スタイルを探っていく。

 店舗ごと戦略で柱になるのが営業時間、商品構成、価格設定、販売促進の方法である。 下記の事例であれば、同じ中央線沿線である高円寺、吉祥寺、でも、住宅街である高円寺に比べ、多様な商業施設などが密集する吉祥寺のほうが客層が幅広い。そして「昼から飲める店がほとんどない」という意見が多かったため、開店時間は高円寺店の17時に対し、吉祥寺店は11時に設定している。 一方、比較的所得水準が高いビジネスマンが多い赤坂では、「落ち着きのない店は好きじゃない」という意見が多かった。そこでアルコールは飲み放題メニューを外し、代わりにブランドワインの品揃えを充実させた。

販促もそれぞれのエリアでもっとも効果が見込める手段を選択し、集中的に営業をかけることで地域のマスのニーズを掘り起こしている。 学生街である高田馬場では幅広い時間帯で学生グループの飲みのニーズが大きい。また、深夜営業の店も多い飲み屋街に立地するため、24時間営業を採り入れている。

商業施設に囲まれた繁華街に立地。周辺には多様な飲食店が軒を連ねているが、比較的高単価な店が多い。客単価2600円と低めの価格設定を打し、幅広い時間帯での集客を図る。
都内有数のオフィス街である赤坂。法人営業の販促を強化するとともに、来店客の年齢層もチェーンの中では高めになるため、飲み放題を外して落ち着いた店づくりを重視した。
店は住宅街につながる商店街沿いに立地。帰宅途中の歩行者の割合が高く、「居酒屋だと食事がとれない」という意見が多かったため、メニューにごはんセットを加えた

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